横浜・みなとみらい駅から、赤レンガ倉庫を目指す人々の波が、桜並木を抜けて続いていく。新港サークルウォークから見える赤レンガ倉庫は、既に、静かな熱気で包まれていた。
みなとみらいの街角には見慣れたフェスのロゴが掲げられ、行き交う人たちのリストバンドが春の陽光を反射している。音楽イベントとしての熱気というよりも、街全体がある種の”モード”に入っているような、あの独特の空気感。昨年初めてここを訪れたときにも感じたが、2回目のCENTRALはその密度が明らかに増していた。
2026年4月3日(金)から5日(日)、『CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL 2026』が2回目の開催を迎えた。3日間の動員数は約9万人。Kアリーナ横浜、横浜赤レンガ倉庫 赤レンガパーク特設会場、KT Zepp Yokohama、そして臨港パークという4つの場を舞台に、34組のアーティストが春の横浜を彩った。
昨年の初開催で「都市型フェスの新しい楽しみ方」という言葉を初めて聞いたとき、正直なところ、それがどんなものかイメージが湧いてこなかった。コンサートはコンサートで完結するものだし、フェスも少し街と隔絶した場所で行われることが多い。街との連携と言われても、どこかキャッチコピー的な響きに聞こえた。でも今年、街を歩きながら、取材しながら、その意味がようやく腑に落ちた気がした。これは「コンサートに行く」体験じゃない。「横浜の街ごと、フェスになる」体験なのだと。
街全体がフェス空間になる
みなとみらいの街には、会場の外にもCENTRALがあった。
みなとみらい地区一帯のシティドレッシング、コスモクロック21の特別演出。街のランドマークにCENTRALの色が加わり、普段の横浜とは少し違う景色になっていた。横浜市主催の「Live!横浜」も同時開催され、CENTRAL出演アーティスト(日向坂46「7回目のひな誕祭」コラボを含む)の楽曲をみなとみらい各所のロケーションに合わせてセレクトした企画は、期間中に現地で約25,000回アクセスされた。会場に向かう道すがら、スマートフォンを片手に音楽を聴きながら歩く人たちの姿が何度も目に入った。イヤフォンをしながら港の景色を眺め、何かをかみしめるように立ち止まっている人もいた。

桜木町駅前には「やぐら」が組まれ、横浜を拠点に活動する和太鼓集団がCENTRALの楽曲に合わせて演奏していた。駅を出た観光客が一瞬足を止め、スマートフォンを向ける。その横を、”推し”のアーティストTシャツやタオルを身につけた若者たちが会場へと急ぐ。音楽フェスが、港の街の日常の景色に自然に溶け込んでいる。その光景がなんともいえず心地よかった。

昨年との違いをいちばん感じたのも、この「街への浸透」のレベルだった。昨年はまだ「フェスが街に来た」という感じだったとすれば、今年は「街がフェスになった」という感覚に近い。その差は小さいようで大きい。
入場無料の街のフェス、「CENTRAL FIELD」
臨港パークに広がる「CENTRAL FIELD」は、チケットを持っていなくてもCENTRALの空気を全身で浴びられる場所だ。入場無料という一点が、このエリアの持つ意味をぐっと広げている。

今年も多様な人々が入り混じっていた。フェスのリストバンドを付けた参加者、地元の家族連れ、犬を連れた散歩中の人。オープン会場なので、いわゆる”フェス飯”も、誰もが味わうことができる。おそらくフェスには行かなそうな層も、ここではみんながフェスを楽しめる。会場の外から眺めているだけで、十分にCENTRALの空気の中にいる。それが「CENTRAL FIELD」の本質だと思う。
今年特に印象的だったのが、CENTRAL×金村美玖(日向坂46)の展示企画「記憶の欠片」だ。会場の至る所に設置された、写真と言葉で構成された幾何学的な形状の立体造形。遠くで聞こえるSMA芸人たちが繰り広げるステージから聞こえる笑い声が、その周りだけ少し霞んで聞こえるような不思議な空気感があった。じっくり写真を観る人、スマートフォンで写真に収める人、横に立った友人と小声で感想を話し合う人。思い思いの時間の過ごし方が、それぞれ成立している。

PEANUTSがアンバサダーを務めた「リソースハブ」では、不用物を”資源”として回収・分別するサステナビリティ企画が展開された。CHiCO with HoneyWorksとのワークショップや、障がいのあるクリエイターとプロのデザイナーが共創したアートを使ったサコッシュ作りも行われ、子どもから大人まで幅広い層が参加していた。エンターテインメントを入口に社会課題と向き合う設計は、昨年よりも確かに洗練されていた。PEANUTSやセサミストリートのキャラクターブースには子どもたちの列が絶えず、あちこちで笑い声が上がっていた。「楽しい」と「意義がある」が押しつけがましくなく同居している。それがこの場所の居心地の良さだと思う。
全国各地から人気店が集まった「CENTRAL餃子フェス」もあり、フードエリアはどこも長い行列だった。音楽を聴きに来たのか、餃子を食べに来たのかわからない人たちが入り混じって、それでもみんなどこか楽しそうにしている。そういう雑多さも、このフェスの魅力のひとつだ。
赤レンガの前で問われた、一つの問い——「Echoes Baa 2026」
横浜赤レンガ倉庫の特設会場「Echoes Baa 2026」は、ソニーミュージックのマネジメント&レーベル「Echoes」がキュレーションする屋外フェスだ。港を背に、みなとみらいの夜景を見渡しながら音楽を聴くという体験は、Kアリーナともライブハウスとも異なる。風と光と音が一体になった、この場所でしか生まれない音楽との出会い方がある。

4日(土)は小雨のスタートだった。それでも開演を待つオーディエンスの熱気は雨雲を圧していた。レインコートを羽織りながら談笑する人たち、傘を片手にステージを見つめる人たち。天気など関係ない、という顔をしている。
YOASOBIのikuraが「雨なんて関係ねぇだろ、横浜!」と叫んでステージに立った瞬間、本当に雨が止んだ。オーディエンスがざわめき、笑いと歓声が混ざり合う。「アイドル」のイントロが鳴り響き、その日の空気が一変した。

そしてAyaseは、ひとつの問いを客席に投げかけた。
「去年も聞いたんだけど——J-POPって、世界に通用すると思う?」
昨年、同じ問いへの反応はまばらだった。でも今年、赤レンガパークに大きな歓声が上がった。一瞬間があって、それから割れるような声。Ayaseは「去年よりも盛り上がってる」と言い、どこか嬉しそうな表情で「日本の音楽は世界に届いてる!」と力強く告げた。「群青」「夜に駆ける」と畳み込む中で、あの歓声の意味がずっと頭に残り続けた。
あの瞬間は、単なるMCではなかったと思う。CENTRALというフェスが2年をかけて積み上げてきたものが、オーディエンスの反応として可視化された瞬間だった。1年前には不確かだった問いに、人々が自信を持って答えられるようになっている。その変化を、横浜の空の下で目撃した。

今年は、フェス全体としての広がりも感じた。昨年はソニーグループ各社が中心だった協賛スポンサーが、三菱商事都市開発をはじめ多様な企業に広がっている。会場内には三菱商事都市開発がサポートするラジコンブースが設けられ、アクロバティックな操縦に歓声をあげるオーディエンスの姿があった。昨年から続くシルクスクリーン体験など、家族で楽しめる体験型ブースも健在で、ライブを観に来た人だけでなく、純粋に「遊びに来た」人たちにとっても居場所のある空間が作られていた。

そして何より印象的だったのが、会場を満たす人々の顔ぶれだ。子ども連れの家族はもちろん、年齢層の高いご夫婦が音楽に合わせて体を揺らし、笑顔で飛び跳ねている。普段のライブ会場では見かけないような光景が、赤レンガパークの前に広がっていた。知っている曲が流れてきて、思わず体が動いてしまう——そういう瞬間に、音楽の持つ力の本質があると思う。J-POPの持つポップな普遍性が、世代を超えて人々を解放していく様子を、確かに目撃した。

5日(日)は一転して快晴。港に日が落ち始めた頃に始まった羊文学のステージは、「春の嵐」から始まり、ライブが終わる頃にはすっかり日が暮れていた。塩塚モエカの歌声が夕闇に溶けていく様子は、言葉にしにくいほど美しかった。音楽の時間と自然の時間が偶然に一致する——野外ライブにしか存在しない、あの感覚を久しぶりに味わった。

横浜港に花火が上がり、大トリの星街すいせいがステージに現れた。バンドの生演奏を背に、「プリマドンナ」から始まったセットは「Stellar Stellar」「ビビデバ」と続き、圧倒的な歌唱力でフィナーレを飾った。花火と歓声と音楽が重なり合う中、「Echoes Baa」の幕が下りた。
※各アーティストのパフォーマンスの詳細は、ライブレポート全編をあわせてご覧ください。
2年目のCENTRALが証明したこと
昨年、初開催のCENTRALを取材してこう書いた——「横浜が3日間、都市型フェスで熱気に包まれた」と。
あれから1年。今年感じたのは、熱気ではなく「根付き」だ。街の人たちがCENTRALの存在を当たり前のように受け取っている。地元の飲食店がコラボメニューを出し、観光協会が連携し、桜木町駅前に太鼓が鳴り、赤レンガの前では年配のご夫婦が笑顔で音楽に体を揺らす。フェスが街のカレンダーに刻まれていく感覚がある。協賛企業の顔ぶれが広がり、体験コンテンツが充実し、老若男女が同じ場所で音楽を楽しんでいる。1年前と比べて、確かに何かが変わっている。

そして、Ayaseが投げかけた問い——「J-POPは世界に通用すると思う?」——への歓声が、去年より大きくなっていたこと。その事実が、今年のCENTRALを語る上でいちばん雄弁な指標だと思う。アーティストが問い、オーディエンスが答え、その反応がまたアーティストを奮い立たせる。そういうループが、このフェスを中心に動き始めているのではないか。
「日本の響きを世界へ」というテーマは、横浜という街の歴史と深く響き合っている。日本が初めて世界と接続した港町で、J-POPもまた世界へ向かおうとしている。それを、街全体で、老若男女が一緒に体験できるフェスとして——CENTRALは確かに、その役割を担い始めている。まだ始まったばかりかもしれないが、2年目の横浜で感じた確かな手応えは、そう思わせるに十分だった。
来年の春も、横浜に来よう。きっとまた、歓声が大きくなっている。

Photographer:
Echoes Baa ライブスチール:黒崎健一/MMT
Writer & Photographer(ライブスチール以外):
新居 祐介
京都出身。ビジネスプロデューサー、経営者。opus合同会社代表。東京を拠点として活動。
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