幕張メッセで開催された「ニコニコ超会議2026」(4月25・26日)。アニメ、ゲーム、VTuber、コスプレ——あらゆるサブカルチャーが一堂に会するこのイベントに、今年も茨城県が出展した。

ブース名は「超サブカル茨城」。そして、これが7度目の出展となる。
単発の話題作りではなく、毎年継続してきた積み重ねがある。2022年には赤字覚悟のメロンつかみ取り企画で来場者を驚かせ、2025年には「にじさんじ」とのコラボで過去最大規模に拡張。年を追うごとに内容が洗練され、戦略に厚みが増している。県の公式施策として、これほどまでにサブカルチャーへの長期投資を続けているケースは珍しい。
「民放テレビ局がない県」から始まった、メディア戦略の逆転劇
今回のブースを語るには、少し遠回りして茨城県のメディア戦略の歴史を辿る必要がある。
茨城県は、47都道府県の中で唯一、民放の県域テレビ局が存在しない。テレビを通じて県内情報を発信する手段を持てないという制約の中で、県が活路を見出したのがインターネット動画だった。2012年10月に開設された公式動画チャンネル「いばキラTV」がその起点だ。
「いばらきをもっとキラキラ輝く県に」という名前の通り、観光・グルメ・スポーツなど県の魅力をオンデマンド動画で届けるこのチャンネルは、試行錯誤を重ねながら成長を続け、2016年には動画本数・総再生回数・チャンネル登録者数の3部門で全国47都道府県のなかで日本一を達成。2019年には自治体の公式YouTubeチャンネルとして初めて登録者10万人を突破した。
そして2018年、いばキラTVの新施策として誕生したのが、茨城県公認VTuber「茨ひより」だ。自治体初の公認VTuberという前例のない試みは国内外のメディアで話題を呼び、BBCでも事例として紹介された。2021年時点での広告換算額は累計約5億円にのぼるとされる。
テレビがない、知名度が低い——そのハンデを逆手に取るように、県はインターネットネイティブな発信手段を次々と取り入れてきた。ニコニコ超会議への出展はその延長線上にある。
ずらりと並ぶキャラクターたち
HALL4(B18)に設けられた茨城県ブースに足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのはスタンディパネルの群れだ。

アニメ、ゲーム、VTuberといった複数のジャンルから、茨城県にゆかりのあるキャラクターや人気コンテンツが集結。中でも存在感を放っていたのが、茨城県公認VTuber「茨ひより」のパネルだ。茨城県が公式に認定したバーチャルタレントで、県のPR活動にも積極的に関わっている。
ほかにも、大洗町を舞台にした戦車アニメ「ガールズ&パンツァー」、結城市の結城蔵美館とコラボした「刀剣乱舞ONLINE」、牛久市×「ラブライブ!スーパースター!!」、鉾田市×「ななしいんく」など、県内の各地域と具体的なIPとの結びつきが丁寧に示されていた。
注目したいのは、コラボの単位が「茨城県」という大きな括りにとどまらない点だ。結城市・牛久市・鉾田市・大洗町と、県内各地の自治体がそれぞれ異なるIPと組み、ブース内でその取り組みが一望できる構成になっている。
なかでも大洗町と「ガールズ&パンツァー」の関係は、聖地巡礼による地域活性化の先行事例として広く語られるものだ。2012年の放送開始以来、ファンの来訪が続き、地元の商店街や飲食店がキャラクターを積極的に取り込む形で、町全体がコンテンツと共に育ってきた歴史がある。「県と地元が一体となって」という言葉は、このブースにおいてはスローガンではなく、実績の積み重ねとして存在している。
「聖地巡礼」という言葉が定着して久しいが、このブースはその逆引き——キャラクターを入口に、茨城という土地を知ってもらおうという設計だ。そしてその設計は、年を重ねるごとに精度を増している。
「にじさんじ×茨城県」、3年目へ
初日25日の目玉となったのが、14時からの生配信イベントだ。

人気VTuberグループ「にじさんじ」に所属する4名(司賀りこ・ルンルン・早乙女ベリー・酒寄颯馬)と茨ひよりが、ブース内の大型モニターでYouTube生配信を実施。「にじさんじ×茨城県 プロジェクト2026」の始動が発表された。
このコラボは昨年から続くもので、「にじいばジャーニー」と名付けられた取り組みだ。VTuberたちが茨城県内の観光地を舞台にしたコンテンツを配信し、ファンの誘客につなげる——いわゆるインフルエンサーマーケティングのVTuber版といえるが、1年間継続的に実施する点がポイントで、単発のコラボとは一線を画す。
会場に集まったファンたちはスマートフォンを手に、モニターに映し出される配信に見入っていた。
スイカゲームで、メロンを賭ける
個人的に興味深かったのが、15時30分からのeスポーツ対戦イベントだ。
タイトルは「スイカゲームで無双したら茨城のメロンがドロップした件」——この命名センス、なかなかやる。

果物を落として合体させていくパズルゲーム「スイカゲーム」を使い、来場者がゲストと対戦。勝者には茨城県産のメロンが贈られる。負けても参加賞として県産品がもらえる仕組みで、応援するだけでも県産品ゲットのチャンスがあるという太っ腹な設計だ。
ゲストとして登場したのは、音無えりな(G-STAR Gaming)と、いばらき大使の檜山沙耶。対戦を通じて、茨城県がeスポーツ関連産業の振興に力を入れていることも自然な形でPRされていた。

ゲームという入口から県産品の魅力へ——固いPRではなく、会場の熱気と一体化したイベントとして機能していた。
地域PRが「体験」になるとき
茨城県のブースを一通り見て感じたのは、「情報を伝える」よりも「体験させる」ことへの意識の高さだ。
パネルを見て写真を撮る、配信を一緒に見る、ゲームで対戦する——どのコンテンツも、来場者が受動的に受け取るだけでなく、何らかの形で参加できる構造になっている。
VTuberやアニメといったコンテンツは、ファンにとって単なる娯楽ではなく、コミュニティの核だ。そこに地域を結びつけることで、「茨城」という名前が感情とともに記憶される。
大きな予算をかけた観光CMよりも、好きなキャラクターと同じ場所に立った記憶のほうが、人を動かすことがある。このブースは、そのことをよく理解した上で設計されているように見えた。
