今活躍するクリエイターにインタビューする連載企画。数多くのインタビューに答えてきたであろう彼らに、ちょっと違った切り口で迫るべく、本メディアのコンセプトでもある「人」「モノ」「街」という観点を通して、クリエイティブの根源から人となりまで探っていきます。
第2回は、フォトグラファーとして広告からグラビアまで幅広く活躍をされている酒井貴弘さんの登場です。

写真だけが唯一こだわりを持って続けられていることだった
――素敵なアトリエですが、やはり置かれている「モノ」にこだわりを感じます
実は、それがそうでもないんです。確かに、ここにあるものはこだわって買ったものばかりですが、すべてのものにこだわっている訳ではありません。しかも、あまり高いものを買わないんですよ(笑)。なるべくコスパがいいというか、良いものを見つけるのが嬉しいという感じなんです。「やったぞ!」みたいな(笑)。なので、常にものにこだわっているということではなく、部屋にこういうものを置こうと思うと、そこにぐっと向かっていくという感じです。でも、その興味もあまり続かない(笑)。写真くらいですね、こんなに続いているのは。
――いろんな分野に興味を持つタイプなんでしょうか?
好奇心旺盛というよりは、興味の移り変わりが激しいタイプです。器用貧乏というか、何でも人よりは早くある程度のところまでは行くことが出来るんですが、そこからなかなか伸びないというか。普通はそこから伸ばしていくのが楽しいんでしょうけど、自分の場合は、あまりその壁を越えようとは思わないんです。それで、いろいろやってるという感じですね。
高校出た後に、グラフィックデザインの専門学校に行ったんですけど、あまりそれを仕事としてやろうと強くは思わなかった。なので、卒業後は1年くらいIT関係の仕事をしてお金を貯めた後、韓国に2年くらい留学しました。そしたら、そこで知り合った韓国人の方が、フィリピンで英語学校をやってる人を紹介してくれて、ちょうど途上国に行きたかったし、英語も勉強したかったので、留学プラス、インターンみたいな感じで行っていました。
その後、日本に戻ってきて、たまたま映像監督の方と知り合って、ちょうど映像制作の会社を作るタイミングで、そこに入って映像の仕事をすることになりました。そこで、それまでやったことはなかったんですが、映像編集のお手伝いをするようになりました。そうしてるうちに自分でも映像を撮りたくなって、ちょうどテラスハウスがやっていた頃で、ああいう映像用のカメラではなく(スチール用の)一眼で撮ったような雰囲気の映像が流行っていたので、自分も6D(注:キヤノンの一眼レフカメラ)を買って撮り始めました。
その頃は写真には全然興味がなくて(笑)、2年くらいはもっぱら映像を撮っていました。6Dを持ってるのに、ほぼ写真は撮ってなくて動画機として使っていましたね。もったいないですが(笑)。3〜4年は写真を撮ってなかったんですが、写真が好きな友達が現れて、旅行に行く時とかにちゃんと撮ろうと思って撮り始めた感じです。最初は、背景ボケて、カメラでしか撮れないような写真を撮って友達に見せるとちょっとテンションあがるというか、そういうのが楽しくて友達を撮っていたような感じです。なので、仕事にしようとは全く思っていませんでした。その頃の写真ってあるのかなぁ(スマホを取り出しFacebookを遡る)。

鎌倉の紫陽花とか撮ってましたね(笑)友達の赤ちゃん撮ったりとか、懐かしいなぁ。

この辺は、2016年にPENTAXの6×7を買ったりした頃ですね。この頃は、友達のウエディングを撮ったりとかもしてましたね。
こういう風に写真を撮ってくるようになると、当時、グラフィックデザインの仕事に行き詰まりを感じていたので、写真を仕事にしてみようかなと思い始めました。ちょうどその頃、友人の誘いで写真館で撮影の仕事をするようになって、その辺りから人を撮り始めました。その後、2017年にインスタを始めたんですが、モデルさんを撮ってSNSに載せるということをやりたくて、モデルさんに声をかけて撮り始めました。
そこから半年くらいでフォロワーが3000〜4000人くらいになって来て、だんだんと熱中していきました。なので写真を仕事をしていこうと思った時に、写真館で続けるのかモデルさんを撮るような仕事をするためにフリーランスになるか、というのを見極めるために1年くらいSNSをしっかり運用してみました。
自分の場合、30歳の頃から写真をやり始めましたし、結婚もして子どももいたので、そのタイミングで改めてスタジオに入って一から、というのはちょっと難しかったので、いわゆる”王道の”ルートではないところから行くしかないなと思った時に、SNSに可能性を感じました。
――ちょうどこの時期はSNSで写真系が盛り上がっていた時期ですよね
そうですね。ほんとにタイミングが良かったと思います。今はなかなか伸びないですからね。今だと、リールでストリートスナップ(注:街で歩いている人に声をかけて撮影をするショート動画で人気の企画)とかをやっていたと思います(笑)

写真と一緒に旅をしている感覚がモチベーションになっている
――写真にそこまで熱中出来たのはなぜだったんでしょうか?
写真については、写真を撮ることを労働と趣味として一致させても苦にならない、ということに気付いたんですよね。グラフィックデザインは土日にやろうとは思わなかったですが、写真は週末でも撮っていたいし、仮に余命1年だと言われても最期まで写真を撮って残したいんだろうなと思うんです。
それまでは、ずっと天職のようなものを見つけたいけど見つからなかった人生で、20代の頃はいろんなことをやるけど何も形に出来ないというコンプレックスがあって、壁を超えられずに悶々としていたんですが、ようやく天職と呼べるものに出会えたと思えたんです。それまで探してきた、自分の足で立って生きていける、という感覚が写真にはあった。そして、ずっとやり続けていたいと思えることに出会えたことが嬉しかった。なので、30代になっていて、背水の陣じゃないですけど、この感覚を逃したくないという気持ちで真剣に取り組んだというのはあります。
また、写真をやっていなかったら出来なかったような経験も多くしてきました。今まで会うことが出来なかったような人と写真を通じて出会えたり、周りの人と一緒に何かを作るということも写真だからこそだと思います。そんな風に写真を通して世界が広がっていった。写真と一緒に旅をしている感覚があって、それがモチベーションになっています。
――「人」との出会いという言葉がありましたが、ポートレートを撮る理由は何でしょうか?
人を撮るというのは、自分一人では生み出せない予想外のものというか、相手が持ってる要素が大きく影響をするので、自分との掛け合わせで生まれるものが面白いんだと思います。それを撮ってる時のコミュニケーションなんかも、それ自体が面白いというか。とはいえ、すごく人が好きというタイプでもないんですが(笑)。

物語が詰まっているアナログ的なものへの憧れ
――「街」についてはいかがでしょうか?
高校から東京に出てきた時に「絶対高円寺に住もう」と思って出てきたんです。古着屋回りたいなみたいな(笑)。その後、今もずっと中央線沿いに住んでいるんですが、中央線沿いの街って、夢を追いかけている人や夢破れた人とか、芸人さんが下積み時代に住んでいたりとか、物語が詰まっているような世界観のある街が好きですね。例えば高円寺とかのイメージです。高校時代、「19(ジューク)」がすごく好きで、自分でもギター弾いたりしていたんですが、そういう世界観を若い頃は求めていましたね。中央線とか、小田急線とかそういう(笑)。なので、昔から銭湯入ってラーメン食べて、みたいなことはよくやっています。なので港区方面には、たぶん住めないですね(笑)。
その辺りが、今インスタでやっている連載企画の「東京路地裏散歩」なんかにも反映されていると思いますし、写真自体もアナログの要素を残したいと思っていて、フィルムではあまり撮らないですが、現像の段階でそういうテイストを入れたりということ自然とやっています。私は商業写真の撮影をしていますが、”ザ・広告写真”というテイストよりは、もう少し不確定要素があったり、自然光で撮ったりといったような、作り込まれた洗練された感じではないような雰囲気が好きなのも、こういうバックグラウンドがあるからだと思っています。
――冒頭にもお話がありましたが「モノ」についてはいかがでしょうか?
先程もお話しましたが、モノに対する執着があんまりないんですよね。なので、カメラとかにも全然興味なくて(笑)。新製品出てもあまり興味なくて、こういう写真を撮りたいから買う、というような感じです。やはり目的ありきですね。その中で、自分の好みというのはちゃんとある、という感じです。なので、あまりモノ自体には興味がないので、ガジェット系のYouTubeなんかも全く見ないですね。本を集めるとかもないですし、音楽もサブスクで誰かが作ったプレイリストを聴いて、よかったらそれを聴くみたいな。クリエイターって、よくこだわりがありそうというイメージがありますが、自分の場合は全くないですね。
でも、さっきの「街」の文脈でいうと、例えばクラシックカーみたいなものは興味があるかもしれません。レトロというか、人の手で作っているというような手触り感のあるものが好きなんだと思います。レコードなんかも好きなのは、そういうことかもしれません。それで言うと、さっきカメラもこだわりがないと言ったんですが、ライカのType262については、仕事でも使ってるし気に入っているものではあります。

これはほんとに不器用で、デジタル要素がなくて、背面液晶はないし、オートフォーカスもないし、レンジファインダーだからちゃんと撮れない(笑)。M型ライカで言っても、このType262が良くて、M11とかM10Pはデジタル要素が強いので興味ないんですよね。だったらフィルムで撮れよ、となるんですが、そうするとコスパ魂みたいなものとずれてくるので、このカメラが最適解かも知れないですね。このカメラを使い始めてから、自分の写真が変わったし、撮り方も変わったので大事にしていますね。あ、もちろん、お仕事の7割はニコンを使っていますよ(笑)。

――今日お話をお伺いしていて、少しイメージが変わりました
そうですよね。SNSや活動だけて見てる人からすると、ちょっと鼻につくと言うか(笑)、そいうのがあるかも知れませんが、実は人間味があるというか。前回の黒田さんのインタビューで、食べるものにもすごくこだわって1回のご飯も大切にしているという話がありましたが、私の場合は、ランチでもちゃんとしたご飯屋さん入るのが苦手というか、ランチ1000円とかのお店とかはあまり入らないんですよね。牛丼屋さんとかの方が気が楽です(笑)。緊張しちゃうようなところもありますし、家族もいるので、自分だけそういうところで食べるのも悪いな、と思ってしまいます。ラーメンも全部載せが出来ない(笑)。ほんと庶民的なんです。
最近服とかも意識的に買い揃えたりしていますが、やはりシャツも1万円とか超えるとソワソワしてしまいます(笑)。でも、それも目的があって、頑張ってやっている。なので、そこも考え方が一貫していて、やはり目的遂行型なんでしょうね。
商業写真撮って、芸能人を撮ってとか華やかな世界に見えるかも知れませんが、実際はそんな感じでもなくて、すごく地に足つけて地道に生きています(笑)。派手に生きたいとも思いますが、でもそれをしてしまうと自分じゃなくなるという気もします。
――お話をお伺いして等身大のご自身のあり方を大切にされつつも、目的に向かってはとことん突き進んでいくという姿勢が、今のご活躍に繋がっているんだな、ということがとても良く分かりました。本日は、ありがとうございました!
Profile:酒井 貴弘(さかい たかひろ)氏

長野県生まれ。
関東を拠点に活動。広告や俳優・モデル撮影、ファッションなどジャンルを問わずに活動中。
被写体の自然体な魅力を切り取ったポートレートに定評があり、近年では「私が撮りたかった女優展vol.3」への参加や俳優・アイドルの写真集撮影など、ポートレート作品を軸とした活動が広がっている。
SNS ではフォロワーがのべ16万人を超えるなどインフルエンスにも強みがあり、自ら写真家としての活動も積極的に発信している。
Instagram:https://www.instagram.com/sakaitakahiro_/
X:https://x.com/sakaitakahiro_
Interviewer:新居 祐介 / Yusuke Arai
京都出身。ビジネスプロデューサー。東京を拠点として活動。IT・広告・写真関連の会社のマネジメントや経営者を歴任。 プロデューサーとして著名メディアアーティストの大規模写真展及び写真集・作品販売のプロデュースや、写真コンテンツを活用した各種新規事業・イベント・企業タイアップ等のプロデュースを行う。フォトグラファーやコンポーザー、DJとしても活動中。
Instagram:https://www.instagram.com/ysk18r/
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