2025年8月に発刊された『世界にノイズと美意識を』が話題を呼んでいます。著者の児玉秀明氏は、株式会社アマナの元取締役兼クリエイティブディレクターとして数々のプロジェクトを手がけてきました。今回、AI時代における人間の役割について独自の視点で論じた本書について、詳しくお話を伺いました。

「世界にノイズと美意識を」というタイトルに込められた想い
——まず、今回の本の執筆経緯について教えてください。
本の”おわりに”にも書かせてもらっているんですけども、実は株式会社アマナが主体となった自主出版なんです。アマナの45周年に向けて、様々なプロモーションやイベントの中の1つとして、こういう本をということがきっかけでした。最終的にはアマナのファンを増やすような出版ということがスタートラインですね。
——「世界にノイズと美意識を」というタイトルの由来は?
実は、このタイトルはアマナのビジョンワード(目指す姿)そのものなんです。初めはテーマがまだ決まってない時に、アマナの思想を語るのに漠然と「ノイズと美意識」という言葉がいいなと思っていたんですが、あまりにビジョンワードそのままなので迷っていました。アマナの金子社長に見せたら、「いっそ『世界にノイズと美意識を』とそのまま使ったらどうですか」と言われて、それでスッキリ決まりました。笑
先ほどお話しした通り、アマナのファンを増やすという目的のためには、アマナの機能やソリューションなどのケーパビリティを伝えるより、アマナの持っている「思想」を伝えることが中長期に渡ってファンになってくれるのではないかと思って、『世界にノイズと美意識を』というタイトルで書くことにしました。出してみると、この「世界にノイズと美意識を」という言葉が、結構皆さんに新鮮に映るというか、世の中的に「世界にノイズ」という言葉が気になる言葉なのかなということを感じますね。
レオナルド・ダ・ヴィンチから学ぶ「二項動態」の思想
——ノイズと美意識という対照的な概念を組み合わせた理由は?
「ノイズと美意識」という概念は、元々アマナの45年の歴史の中で実践してきた大事な概念です。レオナルド・ダ・ヴィンチの「醜いものと美しいものは共に存在することで、より強く深い印象を与える」という言葉も500年もの時を超え現代にも通ずる概念だと思います。今の時代は、二項対立というよりは、野中郁次郎先生がかねてから唱える”二項動態”の考え方が重要だと思うんです。2つのものがゼロサムゲームじゃなくて、それをうまく2つをこなしながら、次の高みに登らなくちゃいけない。
特に、AIの時代になった時には、答えは、もうある意味出てくる。だけど、これからの世界は、答えにないものというか、白か黒か、アナログかデジタルかということじゃなくて、それをどうやってマージして次のステップに昇華させるのかということが大事だと思っています。実は、この考え方は東洋思想にも通じるものがあります。仏教の大乗仏教の教典の維摩経にある「不二法門」という思想があるんです。「不二」というのは「2つにあらず」という意味で、生と死、善と悪といったものは別々のものじゃなくて、1つのものの部分だと説いているんです。時代や地域に関係なく、究極的にはこうした普遍的な真理に行き着くのかもしれませんね。
AI時代における人間の独自の役割
——AIが進化する中で、人間が果たすべき役割についてはいかがお考えですか?
一般的に、ノイズってすごくネガティブにとらわれる言葉ですが、特に企業だったら、ノイズはむしろ省かなくちゃいけないものですよね。でも、本書ではノイズというのは「イノベーションのゆりかご」だと考えています。そして美意識は、それを洗練するための「羅針盤」だと。これは、実はChatGPTと会話していたら偶然出てきた言葉なんです。確かにノイズって、イノベーションのゆりかごで、攪拌すること、刺激することによって、ひらめきとかが出てくるじゃないですか。それを洗練して、アウトプットするときに、美意識という羅針盤でそれを洗練された方向に導く、そういうことなんです。
昔は正しい答えを出すのが非常に大変だったけど、今はAIを使えば簡単にそれが出てくる。でも、みんながAIを使い始めたら、同じ答えがいっぱい出てきて、もうコモディティ化しちゃうのは目に見えているわけです。だから、人間の個性って非常に重要だし、そういうことから考えると、今、教育に1番の課題があるかなという気がします。
具体的な事例:東京メトロのホームドア開発
——本書では具体的な事例も紹介されていますね。
東京メトロの職員(公務員)の話があるんです。地下鉄のホームドアって、実際に設置するのが大変なんですが、地下鉄は乗り入れがいっぱいあって、車両も違えばドアの数も違う。そのため、どのドアがどういう風に開くのかを無線で察知したりする設備にすごいお金がかかって、普及が遅れていたんです。その職員がふっと思ったのは、QRコードを電車の窓に貼るという発想だったんです。QRコードをカメラで読み込むと、ここのドアが開くとか開かないとかがわかる。それによって、数十億円かかる設備が数百万円で済んだという話です。
これって、凄くクリエイティビティがあるお話だと思うんですよね。カーネギーメロン大学の金出武雄教授の言葉に「素人発想、玄人実行」というのがあります。日本の場合は、どうしても玄人思考になるから、すぐ「こういう技術は無理」とか「そんなのはおかしい」みたいな話になって、イノベーションが進まない。むしろその素人発想で、ケネディが月に行こうというぐらいのムーンショット的な感覚が技術を進化させるわけです。
非デザイナーにこそ読んでほしい
——本書はどのような方に読んでもらいたいとお考えですか?
感度の高いビジネスパーソン、むしろクリエイターというよりは、一般の非デザイナーという人たちにも読んでもらいたいと思っています。クリエイティブの人は、なんとなく自分でそういうものを体感していると思うので。今、日本が行き詰まっているところに対して、ノイズというものをちゃんと取り入れないと。ホンダのワイガヤじゃないけど、そういうのって活性化するじゃないですか。心理的安全性が問われている中で、ワイガヤなんてのは、強制的に話ができるような仕組みですよね。
アート思考という言葉はやっぱり届きにくいんじゃないかと思うんです。アートというと、雲の上に置いてあるみたいな感じで、自分たちのビジネスにどう関係するのかと。でも、今必要なのはそこじゃなくて、もっとビジネスの中で、そういうアート感覚、ノイズと美意識的なことが必要なのかなと思います。
今後の展開と読者への期待
——児玉さんから直接お話を聴く機会はあるのでしょうか?
現在、NTTドコモビジネスの運営している大手町にあるOPEN HUBという共創のプラットフォームで、外部Catalystとしても活動しています。そこで講演したりしているんですが、それをアーカイブした動画を、一般の方でも無料登録すると見ることができます。また、ぜひこの本も読んでいただきたいです。読者の方からは、「難しい言葉じゃなくて、平易な言葉で書いてありすぐ読めた。だけど、その平易な言葉の奥に何かがありそう」という感想をいただいています。人によっては2時間あれば読めるというボリュームなので、ぜひ、出張の新幹線の中で読むにはちょうど良いので、多くのビジネスパーソンに手に取っていただきたいですね(笑)。
まとめ
AI時代を迎える今だからこそ、人間にしかできない「ノイズと美意識」の両立が求められています。児玉氏の推奨する「二項動態」の思考法は、これからのビジネスパーソンにとって重要なヒントとなるでしょう。変化の激しい時代だからこそ、古くて新しいこの智慧に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

購入はこちらから
Profile:児玉秀明 / Hideaki Kodama
クリエイティブ・エヴァンジェリスト。1980年マッキャン・エリクソン博報堂(現マッキャン・エリクソン)入社。1990年にアマナグループの前身である広告写真制作会社のアーバンパブリシティに入社。株式会社アマナの取締役であると同時にクリエイティブ・ディレクターとして長らくコーポレートブランディングを担当。2015年株式会社アマナビの代表取締役社長に就任。2021年NTTドコモビジネス「OPENHUB」Catalyst就任。2021年amana Creative Knowledge Laboratory代表フェロー就任。2013年から2015年まで楽天大学「フォトブランディング講座」講師。2014年から2020年まで多摩美術大学非常勤講師(「デジタル・クリエイティブ論」担当)。2025年 創造性人材伴走サービス「Great RIVER」顧問就任。
Writer:新居 祐介 / Yusuke Arai
京都出身。ビジネスプロデューサー、経営者。opus合同会社代表。東京を拠点として活動。IT・広告・写真関連の会社のマネジメントや経営者を歴任。プロデューサーとして著名メディアアーティストの大規模写真展及び写真集・作品販売のプロデュースや、写真コンテンツを活用した各種新規事業・イベント・企業タイアップ等のプロデュースを行う。opus合同会社ではオウンドメディア支援事業として戦略策定〜コンテンツ制作をトータルに支援している。フォトグラファーとしても活動中。
Instagram:https://www.instagram.com/ysk18r/
X:https://twitter.com/ysk18r
note:https://note.com/yusuke77
URL:https://opus-inc.jp
